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第5話 証拠不十分

Auteur: 月歌
last update Date de publication: 2026-01-01 20:13:38

翌日の朝。

康太と一緒にマンションを出た。

エントランスを抜けると、春の風が頬を撫でる。

桜の花びらが、舞い落ちていた。

三年前の春にも、こうして桜を見た。

蓮くんと付き合い始めた、あの春。

あの頃の私は、まだ何も知らなかった。

「今日も迎えに行くから」

康太の声が、いつもより少し低い。

昨夜の手紙のことを、まだ気にしているんだろう。

「ありがとう」

駅で別れる。

康太は渋谷の工房へ。

私は会社へ。

電車に乗り込む。

いつもの景色が、窓の外を流れていく。

でも今日も、周りの視線が気になる。

誰かが私を見ている気がする。

スマホを握りしめる。

大丈夫。

気のせい。

そう自分に言い聞かせる。

でも手は、震えていた。

——もう大丈夫なはずなのに。

——なんで、まだ怖いんだろう。

出版社に着く。

「おはようございます」

いつものように挨拶をする。

デスクに座って、パソコンを立ち上げる。

メールが山積みになっていた。

今日は著者との打ち合わせがある。

資料を確認する。

原稿のチェックリスト。

修正箇所のメモ。

集中しなければ。

仕事をしている間だけは、余計なことを考えずに済む。

それだけが、今
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    奈良公園から少し離れた奈良町の中心部に、その店はある。格子戸の趣ある町家を改装したとんぼ玉の工房兼ショップ。ガラスケースには、色とりどりのとんぼ玉が並んでいる。瑠璃色、琥珀色、翡翠色——どれも康太の手で生み出された、小さな宝石たち。観光客が、とんぼ玉があしらわれたアクセサリーや雑貨を手に取り、楽しそうに眺めている。私は、店のウインドに映る自分の姿を見た。顔色が、良い。東京にいた頃は、毎日鏡を見るたび、青ざめた顔に怯えていた。目の下のクマ、頬のこけ、震える手——あの頃の私は、生きているだけで精一杯だった。でも、今は違う。全てが終わって、奈良に帰り、康太と共に住んでいる。私は地方紙の編集者として、奈良を取材している。奈良の寺や神社の祭事を取材したり、奈良のレストランやお店を訪ねたり、鹿の写真を撮ったり——編集なのに記者のような仕事もこなす。でも、それが私には合っていた。仕事が、楽しい。東京で出版社にいた頃は、いつも緊張していた。蓮の視線を感じ、佐々木美咲の監視に怯え、誰も信じられなかった。でも、今は違う。奈良の人々は温かく、のんびりしていて、優しい。私はそっと、お腹に触れる。——お腹には、子供がいる。まだ小さな命。でも、確かにそこにいる。私と康太の、子供。子供には、庭付きの一戸建ての方が良いだろう。私の両親は既に亡くなっているが、奈良には実家があるので、いずれはそこに住むのもいい。もちろん、康太の店の二階も心地よいけれど、一歳、二歳になったら、商品のとんぼ玉を投げ飛ばして遊びそう。康太ならば、笑って許してしまいそう。私は、ふっと笑った。今日は、奈良ホテルの取材だ。来月、ここで康太と結婚式を挙げる予定だ。婚姻届はすでに出してあるが、式だけはきちんと挙げたい——そう康太が言ってくれた。今の地方紙の上司にその話をすると、「じゃあ、奈良ホテルのブライダル特集を書いてよ」と命じられたのだ。今日はブライダルのお料理の取材。楽しみ。でも、奈良ホテルの取材の前に、奈良町のお店に顔を出す。店を覗く。康太が、接客をしている。とんぼ玉を、お客さんに見せている。瑠璃色だ。その色は、私に過去の痛みを思い出させる。蓮の執着した色。それでも、今でも好きな色だ。康太が東京に行く私のために送ってくれたペンの色。康太と私の色

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  • 【推し声優の恋人になれたのに】ストーカーに追い詰められる私の日常   第20話 密会

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